秋の趣き
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 

今年はともすれば衣替えが待ち遠しかったほど、
秋が随分と駆け足なようで。
いいお日和であれば昼間ひなかは気温も上がるが、
それでも朝晩の涼しさは結構なもの。
九月の半ばあたりから既にそんな気候になってたものだから、
ようよう陽が登ってからのお出掛けで、
薄着でも平気平気と高をくくっていて
宵になって“ああしまった上着がない”と困るということもないほどで。

 「秋物への移行も自然に出来ておりますしね。」
 「今年は何が流行りなの?」

確かフォークロアというか、ボヘミアンというか、
民族衣装風の柄物やポンチョとか、フリンジの付いたレザーものとかが、
十代から二十代前半まで、広く流行っているそうですよ。
あと、ガウチョの延長か、ワイドパンツも健在ですし、
ぐるんと全面ファーのバッグも人気だそうですよ、と。
そっちの情報もお任せか、
すらすらと口にした平八が
ふふーと楽しそうに笑ってその場で軽快にくるんと回り、
連れのお友達と向かい合うよに後ろ向きになって見せれば。
秋服に変わったばかりの濃い色のひだスカートも、
その動作に合わせ、裾をふわりと広げて可憐な円を描いて見せる。
カラーのところやスカーフが凝ったデザインの今時のそれじゃあなく、
最もオーソドックスだろう型のセーラー服は、
夏だけ上半身が白基調となるものが、今は全身が濃い色に統一されていて。
女学園まで連なる緩やかな坂は、
生徒たちそれぞれの髪色にも漆黒が多いからか
女子高生たちで埋められるとちょっぴり黒々として見えもする。
そんな中だからというわけでもないのだが、
金髪やみかん色という明るい髪色、しかも色白な三人娘は
どこからでも目を引くようで。

 「おはようございます、草野様。」
 「おはよう、林田さん。」
 「おはようございます、紅バラ様vv」

あ・これ、ちゃんとお名前でお声掛けしないと失礼ですよと、
傍に居合わせた先輩様から注意され、
あわわと慌てた下級生が頭を下げ直したのへ、

 「……。(頷、頷)」

彼女もいたんですよの 三木さんチの久蔵お嬢様が、
気にしなくていいからと、
つややかなボブヘアの下級生の肩を叩いてやったところが、

 「あ、あああ、あのあの、ありがとうございますっ。////////」

本人は真っ赤になって ますますのこと焦ったように硬直するわ、
周囲に居合わせたお仲間らしき顔ぶれが わっと口許押さえて含羞むわ、
何だなんだと立ち止まる生徒たちも多数いて、

 「何をやっても罪なお人ですよねぇvv」
 「ホント、ホントvv」

何で何が起こっているのか、一番判っていないらしいヒサコ様、
紅色の双眸をキョトンと見張って、
七郎次に言わせれば あれでもおどおどしていたらしかった。



     ◇◇


朝一番に通学路でちょいとひと騒ぎを巻き起こしてしまった三華様。
かように、大人の皆様をやきもきさせるだけでなく、
同年配の皆様にとっても心騒がす存在なのであり。
体育祭や文化祭といった学園祭の準備も本格的に始まる、
いやさ仕上げに入らんという頃合いに入り、

 「そうそう。ヘイさん、チアフラッグの仕上がりはどうですか?」

体育祭の応援という形で披露されるのが、
簡単なバトントワリングもどきを織り交ぜた団体行動、
運動部各部から選抜された精鋭たちが一糸乱れぬマスゲームを演じるのだが、
それらを率いる格好のグループごとにリーダーがいて、
その顔ぶれたちだけは特別に、そりゃあ大きなフラッグを操る。
何といってもスタッフには平八もいるものだから、
旗の素材や棹や何やに工夫を凝らしてあるので重さも軽減されているけれど、
一際切れのある所作を見せねば
大きな旗は広がってくれないので結構大変。
そんな演目の中、一番の見せ場で先頭や真中へと進み出て、
一人でアクロバティックな凄技を披露するのが
こちらのひなげしさんなのも恒例で。
身の丈ほどまであろうかという長い棹に、
大判の毛布ほどもある旗を掲げての颯爽とした演技は、
その華麗さで毎年観客の皆様を魅了してやまず。
そんな独壇場の演技の仕上がりを、
いつものスズカケの木陰にて
美味しくいただいたお弁当箱を片付けつつ
何の気なしに訊いた七郎次だったのへ、

 「演技の組み立ては問題ないんですがねぇ。」

五郎兵衛さん謹製、それは大きなお結びをぱくついていた時はご機嫌だったのに、
何か問題でもあるものか、む〜んというお顔になったひなげしさん。

 「…?」

塗りも上品なお弁当箱へ、ウサギのキャラつきフォークという可愛い組み合わせ、
セットになってた箸箱を合わせてバンダナで包みかけてた久蔵さんが
切れ長の双眸をやや見開き、キョトンとする傍らで、
白百合さんもまた、

 「何かうまくいかないところでもあるんですか?」

何事へも器用に対処する彼女なだけに、
そして、いつもいつも自分たちへのフォローも完璧にこなすお人なだけに。
困っているなら手を貸そうか?と、
金髪娘二人も そんな気分になったのだろう。
話して話してと目顔で訊かれ、
そちらは別の課題か、スケッチブックを取り出しかけてた平八、
どこか深刻そうな顔をされたのへ、

 「ああ、いえ。大したことじゃあ。」
 「なら話してよ。」

何でもないないと誤魔化しかかるのも受け付けず、
可愛らしくも白い額を寄せ合うように、
三華様がたが内緒話っぽい態勢に入られたものだから。

 「あ…。」
 「何でしょか、お三人でvv」
 「体育祭での演目の打ち合わせとか?」

さわさわさわと周囲が静かにざわめくのもいつものこと。
それだけ注目を注がれているお姉さま方なのでもあり、
最近、白百合様が毛糸を入れた紙袋を持ち歩いておいでなのは、
クリスマスに備えて大物を編まれているからだと思うと目ざとい子が囁けば。
わたくしは紅バラ様が広げてらっしゃる文庫が気になりますわと、
シンパシーらしい一年生がタイトルを知りたいものかじれったそうに呟き。
ひなげし様のスケッチブックも、
どんな作品が描かれているのか拝見したいものですわと、
可憐な手のひらを口許に合わせ、
ドキドキしているお嬢様もいたりするのだが、

 「ですから、ここへ通信ユニットをはめ込むと、
  どうしてもバランスが取れなくなってしまうんですよね。」
 「アンテナって意味ならwi-fi使えばいいんじゃないの?」
 「いえ、バッテリの問題なんですよぉ。」
 「演目時間は…。」

そうまで長くはなかろと珍しくも久蔵が口を出しつつ見やったのは、
そのスケッチブックの一番新しい紙面で。
そこには野外温室や親しいお友達などを描いたスケッチではなく、
実に専門的な棒状の何かしらの設計図が記されてあり。
七郎次の抱えていた紙袋も、
確かに毛糸玉も入っているが、実を云や編み棒でカモフラージュした
棒型千輪という手裏剣もどきな飛び道具を平八から提案され、
持ち慣れるためにと日頃から携帯しているのであり。
久蔵が暇が出来ると読みふけっている文庫本も、
実を云や視線を察知してそれでスイッチの入り切りや文字入力ができるという
先進のセンサー機器を操る練習中なのだったりし。
乙女らしい相談事でもなければ、
お嬢様らしい趣味をたずさえていたわけでもなくて、
活劇への更なる躍進というか、
危ない模索の最中に過ぎなかったりするのだから、
勘兵衛様、五郎兵衛さん、兵庫さん、
早く気づかないとまたぞろえらいこと始めますよ、お嬢様たち。




   〜Fine〜  15.10.04.


 *どこが秋のお話なのやら。
  つか、フラッグに何を仕掛けてるヘイさんでしょうか。
  テロでも警戒してるんでしょうかね。(う〜ん)

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